現在、欧州において「第4次オムニバス法案(簡素化パッケージ)」の議論が進められています。この法案が、欧州の産業全体、そして2027年1月に適用開始となる新しい機械規則 (EU)2023/1230にどのような影響を与えるのか、現在の事実関係と産業界の動向を整理してお伝えします。
法案が目指す「行政手続きの簡素化」と規制の一貫性
欧州委員会が提案したこの法案は、EUの複数の指令や規則を一度に改正し、デジタル化の推進と共通仕様の整合性を図ることを目的としています(出典:欧州委員会 Omnibus IV 関連資料)。
最大の狙いは、紙ベースの報告手続きを廃止して電子形式へと標準化し、企業の行政負担を軽減することです。これにより、EU内における規制の一貫性が高まり、製造業者が規制に準拠しつつ、より効率的に業務を進められる環境づくり(デジタル化の促進)が期待されています。
機械製造業に求められる具体的な対応ポイント
法案に基づき、機械メーカーの皆様には今後、以下のような対応を段階的に進めていくことが求められます。
- EU適合宣言書(DoC)の電子化
製品に添付する適合宣言書は電子形式で作成し、インターネットアドレスやQRコードを通じてアクセス可能にします。また、他のEU法で要件となる場合は、デジタル製品パスポート(DPP)へ適合宣言書をアップロードし、情報の一元化を図ります。 - 使用説明書の電子化と、安全情報の取り扱い
使用説明書は電子形式での提供が可能となります。ただし、重要な「安全情報」については、紙形式での提供、あるいは製品への直接記載が必要です。さらに、購入者から希望があった場合、購入時または購入後6か月以内であれば紙形式の説明書を無料で提供するという、ユーザーに配慮した柔軟な仕組みが取り入れられています。 - デジタル連絡先の明記
製品の適合性を迅速に確認できるよう、製品や適合宣言書に、オンラインでアクセス可能な「製造業者のデジタル連絡先」を記載し、スムーズなコミュニケーション窓口を設けます。 - 共通仕様の遵守
EUの「整合規格」が存在しない、あるいは不十分な場合の代替手段として、欧州委員会が採択する共通仕様を活用し、製品の適合性を証明する枠組みが整備されます。 - 市場監視・通知機関への電子対応
市場監視当局や通知機関(Notified Body)からの要請があった際、製品の適合性を証明する情報や文書を電子形式で速やかに提供し、デジタル化された確認プロセスに対応します。
産業別の運用における実務的な考慮点
上記のようなデジタル化推進は大きなメリットをもたらす一方で、新しい機械規則(EU)2023/1230に当てはめた場合、いくつかの産業において実務上のすり合わせが重要となります。
- 移行スケジュールの検討
現在提案されている法案では、他の製品分野に対しては24ヶ月の移行期間が検討されていますが、機械規則についてはこの適用対象外となっています。現行案のままでは2027年1月20日から即座に対応が必要となり、数年単位の長期プロジェクト(工作機械やロボットシステム等)では、計画的な見直しが求められます。 - 複雑なシステムにおけるリンク管理
多数の部品で構成される複雑なシステムにおいて、「個別の適合宣言書へ直接リンクする」という要件をどのように維持・管理していくか、より効率的な手法の確立が課題となっています。 - 特定環境におけるセキュリティ要件との調整
半導体製造工場などのクリーンルームでは、カメラ付き端末の持ち込みが制限されている場合があり、現場でQRコード等によるデジタルアクセスをどう実現するか、顧客のセキュリティルールとの調整が必要です。
欧州産業界の取り組みと今後の見通し
こうした実務的な課題を解決し、現実的な運用ルールを構築するため、欧州農業機械工業会(CEMA)や欧州工作機械工業会(CECIMO)などの主要な産業団体は、2026年2月17日に共同声明を発表しました(出典:CEMA/CECIMO等 共同声明)。
産業界は、デジタル化と簡素化という法案の方向性自体を強く支持しつつも、企業が秩序をもって新しいルールに準拠していくためには、現実的な実施スケジュールが必要不可欠であると主張しています。具体的な提案のポイントは以下の通りです。
- 少なくとも24か月の移行期間の導入
機械セクターにも他分野と同様の準備期間を設けること。 - 「直接アクセス」要件の削除・見直し
QRコード等から個別文書への「直接アクセス」を短期間で義務付ける欧州議会の提案は、不確実性が高く行政負担を増加させるとして、見直しを求めています。 - 紙の指示書要求期間の延長案への反対
消費者や専門ユーザーが紙の指示書を要求できる期間をさらに延長する修正案は、メーカーに法的な不確実性を生じさせるとして、撤回を求めています。
産業界の各団体は、製造現場の活動を妨げることなくデジタル化を推進していくために、EU機関と積極的に協力し、共に最適な解決策を模索していく用意があることを表明しています。
現在、オムニバス法案は欧州の各機関による三者協議(トリローグ)の段階にあり、正式な採択は2026年後半になる見通しです。
弊社では、現場での円滑な運用がどのように調和していくのか、引き続き最新の動向を注視し、皆様に有益な情報をお届けしてまいります。
