適合性の推定とは?EN ISO 13849-1:2023 で知る最新動向

最近、少し涼しくなってきて、ようやく夏の暑さから解放されて嬉しいですね。

さて、最近の問い合わせで多いのは、機械規則 (EU) 2023/1230 に関する対策や、AI、サイバーセキュリティについてです。一方で、「どうすれば機械指令や機械規則から逃れられるのか?」という質問も目立ちます。特に、罰則や罰金が気になる企業が多いのも事実です。

しかし、機械規則や機械指令、リスクアセスメント、CEマーキングの手法は、オペレーターの安全を向上させ、彼らの家族や財産を守るための重要な手段です。その点を誤解しないでほしいと思います。機械安全は手段であって、目的ではありません。「法や規則の網をかいくぐって、機械の安全対策の費用をケチる」ことが目的ではないことに注意していただきたいです。

もちろん、無制限に費用をかける必要はありません。機械安全の要求と企業の負担をバランスよく考え、適切な対策を講じることが重要です。企業が負担するコストを考慮しつつ、安全性を確保するための適切な対策を行うことが大切です。

機械規則や機械指令に適合するための対策は、企業の信頼性向上や法令順守だけでなく、利用者や社会全体の安全確保にもつながります。安全性を確保することは企業の責務であり、それによって利益だけでなく、信頼も築かれることにメリットがあります。

今後も機械安全に関する情報や対策について、皆さまに役立つ情報を提供してまいります。引き続き、よろしくお願い申し上げます。

目次

EN ISO 13849-1:2023 (Safety of machinery-Safety-related parts of control systems- Part 1: General principles for design) (機械類の安全性−制御システムの安全関連部−第1部:設計のための一般原則)

機械指令2006/42/EC への適合を推定する整合規格のリストの更新

最近のEU官報(9月2024/2408号、5月2024/1329号)で、機械指令2006/42/EC の整合規格リストが更新されました。この更新には多くの整合規格が含まれていますが、特に注目すべきは、EN ISO 13849-1:2023 の追加です。この規格は、機械の安全性を確保するための制御システムの安全関連部(SRP/CS) の設計と統合に関する基準と指針を提供します。

EN ISO 13849-1:2023 の概要

このISO 13849-1:2023 は、機械の安全性に関連する制御システムの設計に関する国際規格です。この規格は、安全関連部(SRP/CS) の設計と統合に関する基準と指針を提供し、特に以下の点を重視しています。

EN ISO 13849-1:2023 の主な内容
  • 安全機能の仕様
    機械のリスクを低減するために必要な安全機能を特定し、その要求パフォーマンスレベル(PLr) を決定します
  • 設計プロセス
    SRP/CS の設計プロセスを明確にし、必要な安全性能を達成するための手順を示します。これには、ソフトウェアの安全要件やシステムの冗長性の考慮が含まれます
  • パフォーマンスレベル(PL) の評価
    各サブシステムのパフォーマンスレベルを評価し、全体としての安全機能が必要なリスク低減を達成しているか確認します
  • システムの検証と妥当性確認
    設計が要求される安全性を満たしていることを確認するための検証とテストを行います

新しいISO 13849-1:2023 は2023年4月に出版されています。旧版(2015年)との主な変更点は以下です。

主な変更点
  1. 制御システムの設計・開発プロセスによりよく沿うよう、文書全体を再編成した
  2. リスクアセスメントの推奨に関する 4 項を新設した
  3. 安全機能の仕様(5項の更新)
  4. 複数のサブシステムの組合せ(6項の更新)
  5. ソフトウェア安全要求に関する新しい 7項
  6. 設計の人間工学的側面に関する新しい 9項
  7. バリデーション(8項を更新し、10 項に移動)
  8. 機能安全の管理に関する新しい付属書G.5 追加
  9. 電磁妨害 (EMI)イミュニティに関する新しい付属書 L
  10. 安全要求仕様のための追加情報を記載した新しい付属書 M
  11. 安全関連ソフトウェア設計のための故障回避策に関する新しい付属書 N
  12. 制御システムのコンポーネントまたは部品の安全関連値に関する新しい付属書 O

適合性の推定とは

機械指令2006/42/EC や低電圧指令2014/35/EUでは、適合性の推定について定義があります。機械指令では「適合性の推定」以下のように定義しています。

Article 7

Presumption of conformity and harmonised standards
(…)
2.   Machinery manufactured in conformity with a harmonised standard, the references to which have been published in the Official Journal of the European Union, shall be presumed to comply with the essential health and safety requirements covered by such a harmonised standard.

https://eur-lex.europa.eu/eli/dir/2006/42/oj

2. 欧州連合官報にその参照先が掲載されている整合規格に適合する形で製造された機械類は、かかる整合規格によってカバーされている必須健康安全要求事項に適合しているとみなすものとする。

低電圧指令2014/35/EU では、適合性の推定を以下のように定義しています。

Article 12

Presumption of conformity on the basis of harmonised standards

Electrical equipment which is in conformity with harmonised standards or parts thereof the references of which have been published in the Official Journal of the European Union shall be presumed to be in conformity with the safety objectives referred to in Article 3 and set out in Annex I covered by those standards or parts thereof.

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32014L0035

整合規格又はその参照が欧州連合官報で公表されたその一部に適合する電気機器は、第3条で言及され、それらの規格又はその一部で対象とされる附属書Iに定められた安全目標に適合していると推定される。

整合規格と「適合の推定」について

欧州市場で製品を販売する際、製造者はEUの機械指令などに従う必要があります。この指令には、製品が満たすべき健康と安全の必須要件が定められています。ここで重要なのが「整合規格」と「適合の推定」という概念です。

整合規格とは?


整合規格は、EU 全体で統一された技術基準で、製品が健康と安全の要件を満たすための詳細な仕様(必須健康安全要求事項)を提供します。これらの規格は、欧州標準化機関によって開発され、欧州連合官報(OJEU) に掲載されます。

適合の推定とは?


整合規格がOJEU に掲載されると、その規格に従って製品を設計することで、製品が指令の必須要件を満たしていると推定されます。これにより、製造者は個別の要件をすべて確認する手間を省き、効率的に市場に製品を投入することができます。

注意点

  • 「適合の推定」は、規格がカバーする要件にのみ適用されます。製造者は、他のリスクエリアについてもリスクアセスメントを行う必要があります。
  • 整合規格が新しいものに置き換えられると、その時点で適合の推定は終了します。
  • 製造者は、整合規格を使用しない場合や一部のみ使用する場合、その理由と代替手段を技術ファイルに記載しなければなりません。

整合規格と適合の推定は、製品の安全性を確保しつつ、製造者が国際市場で競争力を持つための重要なツールです。製造者は、これらの規格を活用することで、法的リスクを軽減し、効率的に製品を市場に投入することができます


弊社では常に最新の情報を収集し、それをわかりやすく皆様に共有することを心がけています。機械規則・機械指令やISO 13849-1 に関するセミナーやトレーニングも行っておりますので、ご興味のある方はぜひお気軽にご連絡ください。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

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